◆ 基本編

◆ 観察編

◆ 撮影編

◆ その他

日食Q&A  <基本編>

【目次 基本編 質問 】

Q1. 日食はどうして起きるのですか? また、月食とどのように違うのですか?
 
Q2. 日食にはどんな種類がありますか?
 
Q3. 月食ではマスコミが騒ぎませんが、日食が起きるとマスコミが騒ぎます。日食の方が珍しいのですか?
 
Q4. 皆既日食になると周囲が暗くなると聞きましたが、どのくらい暗くなるのですか? 私は1987年に沖縄で金環日食を見たことがあります。
 
Q5. 空の明るさの他に、皆既日食が金環日食と違うのはどんな点ですか?
 
Q6. 日食についての文章で、「第2接触」とか「第3接触」とかいうのを見かけますが、これは何ですか?
 
Q7. コロナとはどういうものですか?
 
Q8. ダイアモンドリングとはどういうものですか? また、ダイアモンドリングを肉眼で見ることはできますか?
 
Q9. 本影錐とはどんなものですか? 肉眼でも見ることができますか?
 
Q10. シャドーバンドとはどんなものですか? 肉眼で見ることができますか?



【目次 観察編 質問 】

Q1. コロナの形は毎回違うと聞きましたが、どんな形に見えるのでしょうか?
 
Q2. コロナというのは、炎が燃えるようにメラメラと形を変えるのですか?
 
Q3. コロナは何色に見えますか?
 
Q4. 日食が始まったら、コロナの他にどんな点に注目したら一番楽しめますか?
 
Q5. 皆既中に、惑星や恒星はどのように見えますか?
 
Q6. 皆既中、周囲の情景は普段とどう違って見えますか?
 
Q7. 双眼鏡を持って行こうと思うのですが、どんな双眼鏡が適当ですか?
 
Q8. 双眼鏡に付けるフィルターで、前に付けるのと、後ろに付けるのとがあって、どちらがいいか迷っているんですが・・・。
 
Q9. 日食中に周囲の変化を観察するという計画があるそうですが、どのようなものに注目すればいいのでしょうか?
 
Q10. 私は観望に徹したいと思っていますが、後でどんどん記憶が薄れていくのが心配です。何かいい方法がありますが?


【目次 撮影編 質問 】

Q1. 写真を撮影したいのですが、どんな機材が必要ですか?
 
Q2. コロナの写真を撮りたいのですが、どのくらいの望遠レンズが良いですか?
 
Q3. コロナの写真を写したいのですが、どんなフィルムが良いですか?
 
Q4. コロナの写真を写したいのですが、露出はどれくらいが良いですか?
 
Q5. コロナを写すには、どんなフィルターが必要ですか?
 
Q6. 私のカメラのデート機構では、「秒」まで写し込むことができません。
 
Q7. 写真撮影の計画を立てたいのですが、注意しておくべき事がありますか?
 
Q8. 実際にコロナの撮影を始めるにあたり、注意しておくことは何ですか?
 
Q9. 日食をビデオで撮りたいのですが、普通のビデオでできますか?
 
Q10. コロナをバックに記念写真を撮りたいのですが、どうやったらいいでしょう?


【目次 その他 質問 】

Q1. せっかく高いお金を払って、苦労して休暇を取って出かけたのに、もし曇ってしまったらどうするのですか?
 
Q2. 観望・観測を含めて、持って行くと便利な小物はありますか?
 
Q3. 日食についてより詳しく、また実際の観測について詳しく知るためには、どんな資料がありますか?
 


<基本編  回答>

Q1.日食はどうして起きるのですか? また、月食とどのように違うのですか?

A1.日食とは、月が太陽を隠す現象です。つまり、並ぶ順番としては「太陽→月→地球」です。 これで図のように月の影が地球に写ります。この時、月の影の中に入ると、地上からは太陽が月の陰に隠れて見えなくなります。
月は小さな天体 ですから、地表に写る 影の大きさも小さい ものです。だから、ちょうど「太陽→月→地球」の順に並んでも、 その小さな影の中に入らなければ日食は見えません。
 これに対して、月食は「太陽→地球→月」の順に並んだときに起こります。 この場合、地球の陰に月が入って、月が普通よりも暗く見えます。 これは図でもわかるように、月が見える地域であれば地球上のどこからでも、月食を見ることができます。

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Q2.日食にはどんな種類がありますか?

A2.日食が起こる原理はA1の通りですが、月の影の地表への写り方は、時によって変わります。理由は二つあります。
 一つは、太陽の周りを回る地球の軌道が完全な円でなく、
地球〜太陽間の距離が少しずつ変化するためです。
 もう一つは、地球の周りを回る月の軌道も完全な円でなく、地球〜月間の距離も変化するためです。この二つの変化が組み合わさって、月が作る円錐形の影(本影・ほんえい)の先端が地表に届く場合と、届かない場合ができます。
 影の円錐(本影)が地表に届く場合は、その本影の中に入ると太陽が月に完全に隠されます。この場合を「皆既日食・かいきにっしょく」と言います。また、影の円錐(本影)が地表に届かない場合、上空で一点に集束した影は再び広がり、擬本影(ぎほんえい)を作ります。この擬本影の中に入ると、月が地表から遠いために小さく見え、太陽を隠しきれません。つまり、黒くシルエットになった月の周りに、明るい太陽がリング状にはみ出して見えることになります。この場合を「金環日食・きんかんにっしょく」と言います。
 皆既日食の場合も金環日食の場合も、本影や擬本影の周りには「半影・はんえい」ができます。この半影の中に入ると、太陽の一部分が月に隠されて見えます。これを「部分日食」と言います。部分日食は、皆既や金環が見られる地域の周囲の、かなり広い地域で見られます。

皆既日食          金環日食
 
撮影:塩田 和生         撮影:石井 馨

( 異なる焦点距離の光学系で撮影しているため太陽の直径が大きく違って写っています )
( 金環日食の写真のもやもやは雲が写っているものです )

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Q3.月食ではマスコミが騒ぎませんが、日食が起きるとマスコミが騒ぎます。日食の方が珍しいのですか?

A3.実際には、地球全体で考えた場合、日食の方が月食より多く起きます。日食の方がしょっちゅう起こるのに、月食よりも大騒ぎされるのは、A1のように狭い地域でしか見られないことが一つの原因です。
 もし、地球上の一か所を動かないとすると、皆既日食や金環日食(これらを中心食とも言います)は、平均して
三百年〜四百年に1回しか起こりません。それに対して月食は月が出ているすべての地域で見られますから、少なくとも2〜3年に1回は起こります。

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Q4.皆既日食になると周囲が暗くなると聞きましたが、どのくらい暗くなるのですか? 私は1987年に沖縄で金環日食を見たことがあります。

A4.沖縄や中国で金環食を見た人は、思ったより空が明るいのに驚いたことでしょう。太陽の光は非常に明るく、太陽が月の影からほんの少し出ているだけで強烈な光を地上に投げかけます。オートのカメラやビデオを使えば、周りの風景は普段と同じに写るくらいです。
 しかし皆既食は違います。例えば、1976年の東オーストラリア日食では時計の文字盤が全く見えないくらい暗くなって、カメラを操作するのに懐中電灯が必要でした。また、逆に1991年のメキシコ日食では空が明るく、時計の文字盤や新聞の活字も十分読めるくらいでした。2001年6月21日のザンビア日食では、空は比較的明るく感じたのに、手元は案外暗く、カメラの液晶が見にくいくらいでした。
 空の明るさや周囲の明るさは、本影の大きさ、本影が地上に差す角度、コロナの明るさ、天候(雲の有無)、地上の様子(雪原か草原かなど)によってかなり違いますが、平均すると日没後20〜30分の明るさ、と思えば良いでしょう。このくらい暗くなると、当然のことながら空には星が見えます。惑星はもちろんのこと、少し明るい恒星なら肉眼でも十分見ることができます。

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Q5.空の明るさの他に、皆既日食が金環日食と違うのはどんな点ですか?

A5.何より違うのはコロナやプロミネンスが見えることです。コロナはその一番明るいところでも満月程度の明るさしかありませんが、真珠色に輝く流線(りゅうせん・ストリーマー)の美しさは例えようもありません。皆既日食はこの世で最も美しい現象だ、と言った人がいます。感受性の強い人は、感動のあまり涙が止まらなくなるほどです。古い本ですが、柴田淑次氏の文章を引用しましょう。「皆既日食の光景は到底筆に尽くせるものではなく、又語り終せるものでもない。写真に見るコロナの有様は、あたかも死せる英雄を見る如く目のあたりに何の発刺さをも感じない。百聞は一見に如かずとか」(「太陽−日食と月食」恒星社厚生閣発行、昭和15年)
 プロミネンスは日食でなくても、特殊な機械(プロミネンスアダプターなど)を使えば見ることができます。しかし、プロミネンスアダプターで見る時は赤く見えるプロミネンスも、日食の時にはピンクに近く見え、何よりもその輝きが鮮やかでコロナの色と美しい対照をなします。
 その他、金環食には見られずに皆既食だけに見られるものは、ダイアモンドリング、本影錐、シャドーバンド、惑星や恒星、赤く染まった地平線などがあります。

 このように見ていくと、皆既食が金環食といかに違うかがわかるでしょう。当然、興奮と感激の度合もけた違いに大きくなります。

プロミネンス ( 赤い炎のようなもの )

撮影:石井 馨

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Q6.日食についての文章で、「第2接触」とか「第3接触」とかいうのを見かけますが、これは何ですか?

A6.日食は丸い月と丸い太陽が重なって見えます。以下、皆既日食を例に説明しましょう。日食が始まるとき、互いに近づいてきた丸い月と丸い太陽が、一点で接触(外接)します。この時を「第1接触」と言います。続いて、次第に太陽を月が隠していき、月が完全に太陽を隠す瞬間がきます。この時、月に隠れた太陽の形が透けて見えるとすれば、大きな円(月)の内側に小さな円(太陽)が一点で接している(内接)ように見えるはずです。この時を「第2接触」と言います。以下、同じように、太陽が月の陰から現れる瞬間を「第3接触」、欠けていた太陽が完全に丸くなる(月と離れる)瞬間を「第4接触」と呼びます。
 昔は「第1接触」の事を「初虧(JIS 694C)・しょき」、「第2接触」の事を「皆既・かいき」、「第3接触」の事を「生光・せいこう」、「第4接触」の事を「復円・ふくえん」とも言いました。味わいのある言葉ですね。

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Q7.コロナとはどういうものですか?

A7.コロナは太陽の周囲に広がる薄い気体で、ちょうど地球で言えば大気にあたるものです。我々が太陽を見たときに丸く見える部分を「光球・こうきゅう」と言い、温度は約6000℃です。それに対して「コロナ」は約200万℃もの高温ですが、密度が希薄なのでその明るさは光球の約100万分の一しかありません。だから普段は光球を手で隠して見ても、地球の空気が光球の光を散乱してコロナより明るくなることと、すぐ近くの光球の光がまぶしすぎることで見ることができないのです。しかし、皆既日食になると光球の光が元から絶たれ、空も暗くなるのでるので、ようやく地上からコロナを見ることができるようになるのです。
 光球に近いところにある「内部コロナ」は、ほとんどが電子で、他に高温のために電子をはぎ取られた(電離した)イオンが混じっています。光球から離れたところに見える「外部コロナ」は、太陽系空間に漂う塵(惑星間塵・わくせいかんじん)が主成分になります。
 内部コロナの成分は電気を持っていますから、太陽の磁場に影響を受けて、さまざまな構造を持ちます。双眼鏡などで観察すると、コロナがただの光のかたまりではなく、細い光の筋が集まってさまざまな構造を形作っているようすを見ることができます。

コロナ

撮影:塩田 和生

 

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Q8.ダイアモンドリングとはどういうものですか? また、ダイアモンドリングを肉眼で見ることはできますか?

A8.月は見かけ上は丸く見えますが、実際には山や谷があるので周囲がギザギザしています。一方、太陽はガス体ですので完全な球体と思って良いでしょう。太陽が月に完全に隠される直前と、月の陰から顔を出した直後、このギザギザの谷間から太陽光線が漏れて、光のつぶつぶのように見えるのをベイリービーズと言います。
 ダイアモンドリングとは、このベイリービーズの一部が強く輝き、月の周囲に淡くリング状に広がって見えるコロナと共に、地上のどんな宝石よりも美しく輝いて見える現象です。その形や見える時間は、各々の日食によって違います
 もともとダイアモンドリングという言葉は、科学的な専門用語ではなく、マスコミが作り出した言葉が広く使われるようになったものです。「第3接触の後に見られるものだけがダイアモンドリングで、第2接触直前のものはそう呼ばない」と定義している文献もありますが、第2接触直前にもすでにコロナが見えることは広く知られており、指輪状に見えることも否定できません。観察者が見たとおりに感じ、見たとおりに使っていい言葉ではないでしょうか。
 ダイアモンドリングはもちろん肉眼で見ることができますが、太陽の光は強烈ですから、あまり見つめると目に良くありません。特に第2接触の時に見つめすぎると、目の瞳孔が小さくなってしまい、皆既中にコロナの淡い部分が見えにくくなりますから御用心!

ダイアモンドリング       金環日食時のベイリービーズ
 
撮影:辻村 幸子               撮影:大越 和子、大越 治

 

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Q9.本影錐とはどんなものですか?  肉眼でも見ることができますか?

A9.日食は月の影が地上に落ちて起こるものです。地表に写る影そのものは人工衛星からでもないと見ることはできませんが、月の影が大気をスクリーンにして写ったものは、地上からでも見ることができます。これを「本影錐(ほんえいすい)」と言います。(「錘」(おもり)ではなく「錐」(きり)です)
 太陽が月に完全に隠される時刻(第2接触)の少し前に、西の空から、大きく暗い月の影がものすごい勢いで空を移動してくるのが見えます。これが本影錐です。午前中の日食の場合、たいていの人は太陽のある方を見ていますから、本影錐は背後からやって来ることになります。この影はかなり大きいので、望遠鏡や双眼鏡をのぞいていたのではわかりません。肉眼で見るのが一番です。ただ、みんな興奮していて、早めに見え始めたコロナやダイアモンドリングに注目していますので、よほど注意をしていないと本影錐は見落とされてしまいます。
 本影錐は太陽が再び顔を出す時刻(第3接触)を過ぎても、しばらくは東の空に去って行くのを見ることができます。
皆既日食が起こるときは、注意さえすればたいていの場合、本影錐を見ることができます。しかし、どちらかといえば、太陽高度が高い日食よりも高度が低い日食の方が、はっきりした本影錐を見ることが多いようです。

本影錐の移動 ( 左から右へ移動しています )

撮影:石井 馨

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Q10.シャドーバンドとはどんなものですか? 肉眼で見ることができますか?

A10.シャドーバンドとは、太陽が完全に隠される時刻(第2接触)の直前と、太陽が再び顔を出す時刻(第3接触)の直後に、細いさざ波のような影が地上を走る現象です。ちょうど、プールの底にゆらゆらした影が搖れているのに似ています。地面や望遠鏡の上をざわざわと流れる影は、まるで自分が水底にいるような非現実的な感覚をもたらし、いやがうえにも緊張を高めます。
 シャドーバンドは、早い場合は第2接触の3〜4分前から見え出すこともあります。たいていの人は太陽の方(上)を見ているので、足元のシャドーバンドを見るには、意識的に下を向く努力が必要です。
 ただ、いつもシャドーバンドが現れるわけではなく、雲が多い時などには見えないこともあります。
 肉眼ではかなりはっきりした影に見えますが、実際は非常にコントラストが弱い、淡い影なので、写真やビデオなどの映像として捉えるには、かなり工夫しないと難しいものでした。1990年代の初めまで、誰が見てもはっきりわかる映像はわずかしかありませんでしたが、最近はビデオカメラの性能が良くなってきたので、スクリーンさえ確保できれば比較的簡単に映像化できるようになりました。
 なぜこのような影ができるのか? 細くなった太陽のスリット状の光が、地球大気のムラの中を通過するときに、細長い影を作るのではないか、と言われています。
今までの観測によると、影の方向は第2接触・第3接触の接触点の位置角に等しいことが分かっていますので、この考えはほぼ間違いないと言えるでしょう。

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